私たちの海・東京湾が育む海苔の魅力

冬日を背に、多摩川河口へと自船を走らせる田村さん。
11月も半ばを過ぎると水温が下がって、海苔の生育に適した時期となります。
寒い日が1週間も続くと網についた海苔の種がよく成長し、海苔収穫最盛期の幕開けとなるこの時期、いちばん最初に収穫・加工してできた海苔を新海苔といいます。

新海苔は、そのシーズンはじめの気温や海の状態によってできばえが左右されますが、柔らかく、香りが高く、ほのかに甘いというすぐれた特徴があるので珍重され、卸ではご祝儀相場で高く取引されます。

来年2/19に実施する「江戸前海苔作り体験」(定員まであとわずかとなりました!)で海苔作りを教えてくださる元海苔生産者の田村保さんから「新海苔が入ったのでおいで」とおっしゃっていただき、羽田にある田村さんのお宅におじゃましてきました。
田村さんのいとこにあたる方が木更津で海苔漁をされていて、そこでできた新海苔がサンプルとして送られてきたのです。
さっそく新海苔のお相伴にあずかりました。
あたたかいご飯にのせて食べると、炊きたてのご飯の蒸気でいっそう新海苔の香りがたち、旬の食べ物ならではの実力を感じました。
「江戸前海苔作り体験」でも、今シーズンに採れたばかりの木更津産の海苔(田村さんのいとこの方が作ってくださる海苔!)を味わっていただけます。
楽しみにしていてくださいね!

試食後は多摩川河口に田村さんがしかけた道具に「天然海苔がついているかどうか」を確認するために船で出発。

現在の海苔の生産は業者から仕入れた海苔の種を網に仕込み、それを生育させたものを採取するという方法をとっています。
それに較べて、江戸時代の海苔生産は、海の中に竹の枝をさかさにたてたタケヒビという道具に天然の海苔の種が自然に付着して成長したものを採取していました。

昨今、多摩川をはじめ東京湾の水質がよくなっているため、田村さんは昔のように天然の海苔の種が再びついて成長するだろうか、ということに関心をもち、海苔漁を廃業して40年以上を経た平成17(2005)年に、多摩川河口のある場所へ実験的に昔ながらのタケヒビを仕込みました。
その結果、やはり予想どおり天然海苔がつくことが確認できて、以来、毎年10/1に決まってタケヒビを仕込んでその年々の海苔のつき方や成長の具合を観察し続けています。

今シーズンはじめての観察となるこの日、その場所にいったところ…
ジッコがついたタケヒビ(クリックで拡大、ピンクのひらひらした部分が天然海苔)
ありました、ありました!
りっぱな「ジッコ(地元の天然種の)」の海苔がついていました!
「お、ついてた!」と田村さんも喜んでいらっしゃいました。
今シーズンの海苔は、例年に較べて暖かい日が続いたため、成長が遅いそうです。
でも、羽田のジッコは波に洗われないので、柔らかく高品質なんだとか。

東京湾の湾内・木更津で高品質の海苔が作られていることは、私たち首都圏に住んでいる者でも、あまり知らないこと。

私たちの食卓になじみ深い海苔について知ることは、身近な自然環境や産業について造詣を深めることでもあります。
ぜひ、海苔作り体験をつうじて、楽しく知的好奇心を満たしていただければ、と願っています。
帰り際に田村さんからいただいた多摩川産のボサエビ。
ありがたい自然の恵みです。
わけぎと紅ショウガを刻み入れてかき揚げに。
エビの目の点々がみんなこっちを向いているようで罪の意識を感じましたが…
ガブッと噛むと上品なエビの香りがたちのぼりました。