虫に学んだ「生きる」ということ。

バシー海峡では、強い風の中でも働くひとたちがいます。
台湾八景にも選ばれている鑾鼻公園。
強運な尺取り虫ちゃん。
昨年12月中旬に台湾に行ってきました。
そのときの概要は → こちら。

台湾の最南部、バシー海峡に面した鵞鑾鼻(エランビ)公園でのことです。

バシー海峡は、フィリピン領バタン諸島と台湾の間に横たわる海峡です。
風光明媚で、銀色に輝く波間に浮かぶ漁船をみていると、一日中ここにいてもいいと思えるような場所ですが、風が強くて、おそらく漁船は操業にたいへん苦労している場所だと推測されます。

そんなバシー海峡を望む、だーれもいない展望台で、眼前に広がる景色を撮っていた自分の左腕にモソモソっとする感じが。

ふとみると、2cmくらいの尺取り虫が動いています。
強い息を吹きかけると、あっけなく木の床に落ちました。

すると、10人くらいの観光客がわいわいとこの展望台にやってきました。
虫が落っこちた場所は、運が悪いことにバシー海峡をバックに記念撮影をするのにもってこいの場所。
みるみる間に、入れ替わり立ち代わりで、虫が落ちた場所で楽しそうに記念撮影が始まりました。
当然、足下に落ちた虫の命運など彼らが知る由もありませんし、のろい尺取り虫が自分の上に踏み込まれてくるだろう人々の脚を避けられるはずもありません。
私は至って冷たい目で、成り行きを傍観していました。

ところが、10分ほどしてその団体が過ぎ去ったあとも、なんとその虫は生き延びていたのです。
私はとても深い感銘を受けました。
取るに足らないような虫でも、日々、そして瞬間瞬間に、信じられないような幸運のもとに生き延びているんだな、と。

私の左腕に落ちてくる前にも、私の腕に落ちてきたときにも、そして私の腕から吹き飛ばされたあとも、その虫は生きていられました。

おおきな自然のもとでは、人間もまたこの尺取り虫と同じようなはかない存在です。
この事象から推すと、私たちもきっと日々、信じられないような幸運のもとに生き延びていると思われます。

日本に帰ってきたその日、空港から自宅へ戻る間に、さっそく人身事故による振替輸送に遭いました。

それぞれの人に、さまざまな事情があることでしょう。
でも、ふだん気がつかないような小さな幸運が、およそ天文学的な確率で連続していたことによって私たちのいまの命がある恩恵を、改めて認識したいものです。