【野外塾+】安全は「参加者自身で守れる」のが一番。

 2021年松の内は、従来は共有に意味がないと思っていた運営の雑事情を「野外塾+(プラス)」と題して事実ベースでつづります。

3日目は活動中の安全をどのように守るのか、私たちの考えを共有します。

大型ナイフのバトニングで薪をつくる小1さん。

昨日のブログでは、下見の大切さを記しました。
下見は参加者の安全を守る基盤になるのですが、ご自身の山行やキャンプを思い起こしていただければ、下見をしたうえで本番に臨んだ、というケースはまずないのではないでしょうか。
でも、人生初めての山登りが劒岳だった… という人もまずいないはずで、普通は身近な自然から困難な自然へとステップアップしながら心身の準備とあこがれを積み増していくことでしょう。

そうはいっても、自然に親しみたいけど身近に詳しい人がいない、というのが今の親子さんを自然から遠ざけている大きな課題です。
私たち地球野外塾の役割は親御さんと子どもの双方に、自分たちだけで自然の中に跳び出したときになにに注意すればケガを予防して楽しめるのかをお伝えして、活動目的に沿った体験の成功を目指して試行錯誤をなんども反復するのをサポートします。
試行錯誤中の小さな失敗や数日で治る程度のケガは、より重大な事故を防ぐため、まさにワクチン的な役割として必要、と考えながら実施しています。
野外塾での活動は、たき火でいえば「焚きつけ」のようなもの。だんだん冒険心の火が育ちはじめたら、今度はぜひ自分たちで自然のなかに飛び出していただきたいと願ってます。

地球野外塾の活動中、ご参加者が通院を要したケガは創立以来16年の間に
  1. キャンプ中にナタで手指の腱を切って縫合した。 →創立初期に起きた痛恨の事故事例。原因は専ら主催者の経験不足と安全説明不行届。キャンプの朝、参加者ふたりがナタで薪を作ろうとして、ひとりが薪を倒れないように持ち、もうひとりが降り下ろして事故発生。スタッフが6名いたが朝食作りに専念していたことと、子供たちが薪作りを試みた場所がちょうどテントの裏側だったので、だれも気づかなかった失態。
  2. キャンプの集合時にはしゃいでジャンプに失敗、スネを切って縫合した →主催者の再三の制止を無視の結果。
  3. キャンプ中にムカデに足をかまれた。
  4. キャンプ中にヤブ蚊に刺されて大きく腫れた。
  5. キャンプ中に狭い空間で不意に立ち上がり頭部を切った(縫合なし)。
  6. 海岸で牡蛎殻がサンダルを突き破って足裏を切った(縫合なし)。
  7. 山行中に蹴った朽ち木がクロスズメバチの巣で20ヶ所以上刺された。
  8. 下山中、主催者が注意を促した鎖場で足を滑らせて尾てい骨を強打(骨折なし)。しかし、注意に従って鎖を握っていたので転落を免れた。
  9. 沢歩き中に友だちがふざけて投げた石がスネに当たって切れた(縫合なし)。
  10. 未就学児の運動サポート中、足を滑らせた子が足首の剥離骨折(安静治療)。
のとおりです。なかでも1は主催者の経験不足で子どもたちへの安全説明が十分でなかったために起きた恥ずかしい事故事例です。
ケガした参加者がバイオリンを習っていたため、縫合の成功と指の動きが回復したという親御さんの報告に安堵したときの気持ちは今も忘れません。

しかし、この事故事例があったからこそ、主催者は簡潔でわかりやすい事前説明と、慣れない動きに対する見守りと助言をして、参加者が自分で自分の安全を守れるようにすることが一番たいせつなことだと痛感しました。
調理や工作を伴う活動では「刃物はひとりで扱う」というシンプルなルールを活動のいちばんはじめに伝えて、ルールに反する事例を例示するようになり、以来刃物での事故は生じていません。
オトナだけでなにかに専念しないよう、オトナが互いに注意しあうのも大切です。オトナだけでやりがちな調理やテント設営の時は、子どもがフリーになって溺水、行方不明など重大な事故が発生しやすい魔の時刻です。
子どもをそれぞれの仕事にじょうずに巻き込めば子どもがスキルアップできるし、目が行き届かないことに原因する事故が予防できます。
余裕があればオトナの中からひとり「浮き」の役割を作って、全員の作業を俯瞰してもらうとさらによいです。

子どもたちの理解力は、私がこの仕事を始めたときの漠然とした予想をはるかに上回るすばらしいものです。
私たちオトナは子どもの理解力を軽んじず、むしろオトナ自身がわかりやすく簡潔な事故予防のアドバイスを模索して慣れぬ動きへの見守りと助言を続ければ、子どもは臨機応変にオトナから得た知恵を活用して事故予防ができるものと推定して、これからも私たちは活動に臨みます。
もし、この想定が破綻して(結果的に過度に子どもの理解力に依存するような傲慢が生じて)大きな事故が起き、訴訟が起こされた場合、過去の判例から推せば厳しい判決が下るでしょう。
いっぽう、この想定の下、過去16年と同様に子どもの理解力を信じてサポートを続けたうえで痛恨の事故が発生しなければ… 事故予防に長けた子がたくさん育つでしょう。
私たちが子どもたちに伝える知恵は、私たちの過去の経験から得た経験知であり、子ども自身が実体験するわけですから、子どもたちが今度は親になったときには裏づけがあるその知恵を自分の子に伝えることができます。
事故を予防する知恵の世代間伝承を期待したとき、私たちからご参加者へと伝える方法を今よりももっとわかりやすく合理的に洗練させたいと奮い立ちます。

育ちゆく子どもたちにこうした未来を見いだせる方がいらっしゃれば、ぜひ力を合わせて進んでいきたいと希望します。